脳性まひの二次障害 ボツリヌス療法インタビュー

2019年6月
このインタビューは、2003年に掲載したものです。それから十数年後に、私自身もボトックス(ボツリヌス)治療を始めました。治療の仕方などは、今でも共通している部分が多いので、興味があればお読み下さい。
私のボトックス治療体験談

(AJU福祉情報誌63号掲載)

私は脳性まひで、二次障害を発症して98年に手術をしました。同じ二次障害で悩んでいる人に向けて情報を届けたいと思っています。今号では、脳性まひの二次障害の新しい治療法として注目されている「ボツリヌス療法」を紹介します。(2003.04現在)

Q:ボツリヌス療法は注射による治療と聞きましたが、整形外科の痛み止めの注射とはどう違うのですか?

愛知県豊明市にある藤田保健衛生大学病院の神経内科の山本紘子教授と野倉一也助教授にお話を伺ってきました。

A:痛み止めの注射は痛みを取るだけで、筋肉の収縮はそのままですが、ボツリヌス療法は筋肉の収縮を取り、それで痛みを取ります。

Q:具体的にはどういうものですか?

A:ボツリヌス療法は、自分の意志とは関係なく動いてしまう不随意運動のある筋肉に、極めて少量のボツリヌスA毒素を注射します。現在、保険適応があるのは、極端に瞬(まばた)きが多くなる眼瞼痙攣((がんけんけいれん)、顔の半分全体が痙攣する半側顔面痙攣(はんそくがんめんけいれん)、首がひとりでに傾いてしまう痙性斜頚(けいせいしゃけい)の3つです。
脳性まひに伴う頚部のジストニア(*1)は痙性斜頚を拡大解釈すればボツリヌス療法の適応となると私たちは考えています。
*1)ジストニア 不随意運動の一つで筋肉の異常な緊張症

Q:ボツリヌス菌とは?

A:ボツリヌス菌は食中毒を起こす菌で、その菌が毒素を作り出します。菌を注射するわけではなく質を良くした毒素を注射します。筋肉が収縮する時、神経の末端からアセチルコリン(*2)というのが出ますが、毒素はアセチルコリンが出るのを抑えます。
すべて抑えるわけではないです。効きすぎてはいけないので、ある部分だけです。程よく抑えられれば筋肉の収縮がなくなります。脳から信号を伝達する神経そのものに影響するわけではないので、神経を妨害するということはないです。
薬の効果がなくなると、またアセチルコリンが出てきます。一回の注射で2~3ヶ月効きます。あまりたくさんやると今度は力が抜けてしまうので適当な量しかできないです。
*2)アセチルコリン 筋肉を収縮させる物質

Q:なぜ脳性まひの二次障害の治療に興味を持たれたのですか?

A:(山本先生)去年、東海北陸地区の身体障害者父母の会の連合会が名古屋で開かれました。その時の講演で新しい治療としてお話をしました。子供達に不随意運動による脊髄の障害が起こっていてとても困っていて、何とかいい方法はないかというお話が出ました。手術をしたが良くならなくて困っていること、手術をしたのは、かなり悪くなってからだったこと、手術をした後、不随意運動があり安静にすることができなかったことなどを聞きました。この講演のあと多くの方から私のところに問い合わせがあり関心の高いことがわかりました。私は、まず不随意運動を軽くすることが大事で、長い間、不随意運動で首のねじれが起こっていると、頚椎の変形が起こってくるから、そうなる前に首の不随意運動を少なくしておけば、手術の時期をもう少し遅くすることができるのではないか という話をしました。今までは眼瞼や顔面の痙攣をとることは保険で可能だったのですが、去年になって首のねじれにも適応となりました。まず私共の神経内科でやってうまく行けばこれを全国レベルで行いたいと思っています。

(野倉先生)私は以前にアテトーゼ型脳性まひに伴う脊髄障害の病理報告をしたことがあり、脊髄の病理(亡くなった人の脳脊髄の標本を顕微鏡などで観察する)および二次障害の防止について大変興味があります。神経内科医が脳性まひの方をみる機会があまりなかったのですが、今ボツリヌス療法を使えるようになったので、整形外科の先生と連携してやっていきたいです。一度、二次障害の手術をしてもまた悪くなる可能性もあるので、ぜひこの治療法をお勧めしたいです。首の骨が神経を圧迫するだけではなく、首が反復性に動くだけで神経障害がおこると思います。例えばプラスチックでもゴムでも何回も動かせば悪くなるのと同じです。

Q:今まで脳性まひの人をどれくらい治療しているのですか?

A:一年くらい治療してきて 6人以上に治療しましたが、今のところ注射時に針が折れたりするなどの問題は起きていません。痙性斜頚(けいせいしゃけい)では眼瞼痙攣((がんけんけいれん)や顔面痙攣(がんめんけいれん)より有効率がやや低く85%です。

Q:効き目はどれくらいで出てきて、どれくらい効くのですか?

A:一週間で効き目が出てきて、2ヶ月から3ヶ月は効果があります。

Q:効き目の評価は?

A:ボツリヌスを注射する前と後にビデオを撮らせてもらい、よく使われている不随意運動の評価基準を用いることと表面筋電図(*3)の検査を行います。体の表面に電極をつけ、筋の電気活動を記録しますが、治療する前と後では全然違います。
改善度の実際の評価は一人一人の症状がみんな違うので難しいです。正確な評価判定にはもう少し時間がかかると思います。どんな薬もそうですが効く人と効かない人がいます。
*3)表面筋電図 筋が収縮、緊張する際に発生する活動電位を記録したもの

(表面筋電図)

Q:副作用は?

A:ある人は、効きすぎて首が後ろに反って戻す時、首が垂れ下がってしまい、電動車いすの運転をするとき前を向くことに時間がかかるという例がありましたが、だいたい二週間くらいで必ず元に戻ります。

Q:今まで脳性まひの人を治療して効き目がない人もみえますか?

A:主として痛みに対して投与した方がみえますが効きませんでした。痛みというのは二つの痛みがあって筋肉がつっぱって痛いのと、首の骨が変形した為に脊髄や脊髄から出る神経根が圧迫されて痛いというのがあって、原因が後者の場合には痛みをとるのはなかなか難しいと思います。

Q:一回治療を受けるのにどのくらいの時間がかかりますか?

A:注射は5分くらいで済みます。何秒間という短い時間ですが、それを何ヶ所も打ちます。首の筋肉に打とうとすると一応6ヶ所。肩が上に挙がりやすい方は肩の筋肉にも2ヶ所。全部で10ヶ所くらいに分けて打ちます。前の方にはあまり打たないようにしています。嚥下(えんげ)障害(*4)を起こす危険もあるので、前に打たなくてもコントロールはできると言われています。気をつけているのは、筋肉は深い所から浅い所まで何層もあるので、深い所から浅い所まで3ヶ所くらいに針の深さを変えて打っています。そういう意味では技術がいります。われわれのところは注射時の痛みを和らげる特別な工夫もしており、希望があれば注射前に30分ほど前処置をします。
*4)嚥下(えんげ)障害 飲み込みが悪くなったりする障害

Q:薬の量は?

A:薬の溶かし方で変わりますが2~4ccくらいです。顔面は1ccくらい。海外ではもっと多く注射している所もあるらしいですが、量は効果をみながら変えていきます。顔面は効きすぎると、まぶたが閉じにくくなった人もいますが、目薬を処方しました。それはずっと続くわけではないので安心してよいと思います。今までに何十人、回数にすると100回近くやってきたけれど、その方は例外的に効きすぎただけです。効きすぎてまぶたが閉じにくくなったり、口が開いてよだれがでやすくなったりしたとしても、それはずっと続くわけではないです。二週間くらいで治り、その後は2ヶ月くらい調子が良いです。それで注射を止めたかというとそうではなくて、やっぱり注射を続けてほしいということで続けています。

Q:予約してすぐ治療が受けられるのですか?

A:二週間かかります。最初は4日間ほどの入院が必要です。

Q:治療費はいくらかかりますか?

A:薬の価格は10万円ですが、保険がきき、負担分たとえば2割負担であれば2万円かかります。
*愛知県の場合、障害を持った方は『保険証』・『障害者医療費受給者証』を一緒に医療機関の窓口に提出すると保険の効くものは無料になります。

Q:患者さんの年齢は?

A:30~40代中心です。20代の人もみえます。若い時は何も症状が出てこないですが、二次障害はある時突然出てきます。その辺のことも調べていきたいです。30代くらいから治療しておくのが良いのかもしれない。早くから治療しておけば首の変形を抑えられると思います。ちょっと痛いとか首がひねるのを真っ直ぐにしたいなどのことも、全然問題ないと思います。長く続けるとこの注射に対する抗体ができるかもしれないというのはあり得ます。今までそんなに多くの報告はないが、全く否定はできないと思います。できれば最初は量を少なめにして時間を空けて、3ヶ月は我慢してもらうなどの方法が良いと思います。

Q:最初に始めたのはどの病院ですか?

A:元々日本でジストニアの研究をしてきたのは京都大学病院の神経内科のグループです。

Q:言語障害はよくなると思われますか?

A:それは分からないです。ジストニアは注射した所と全然別の場所が良くなるということがあると言われていますが、言語については考えた事がなかったです。首に注射して喋りが良くなるという可能性が全くないということは言えない。それはジストニアの難しいところでもあります。首も背中の筋肉に打つと治るというわけのわからないこともありうると聞いています。海外では唾液(だえき)腺(せん)に注射し、よだれが減るという論文もありました。

Q:海外の状況は?

A:海外では規制がゆるく、体中どこでも注射しています。日本では厚生労働省が保険の関係で厳しいです。脳性まひによる首の不随運動というものを痙性斜頚(けいせいしゃけい)とよんでいいものかどうかという事に反対・異論を唱える人がいる可能性があるが、こちらでは頚部ジストニアとして痙性斜頸と同じようなメカニズムによるものであって、違いはない、明確な差異はないと考えています。

Q:「脳性まひに伴う頚部ジストニア」というのは「健常者の頚部ジストニア」と明確な差異はないのですか?

A:脳性まひで頚部ジストニア以外にも様々な症状を有しているという点で異なります。頚部ジストニアの部分だけを取り出した場合にも・差が無いわけではありませんが、線引きは不可能でしょう。たとえば心因性の痙性斜頚に対しても使用は可能なわけです。
痙性斜頚は原因がわからない病態ですから脳性まひによるものは除外するという規定などは元々ありません。

Q:反対・異論を唱える人もみえるようですが・・・

A:これまで見せて頂いた方の中には脳性まひのない痙性斜頚と、ほとんど見分けのつかない症状の方がみえて、その方に治療をすることには誰も疑義を唱えないと思います。

Q:国内では現在、どの病院で治療していますか?

A:この病院が初めてだと思います。日本では一応免許制度がありこれはアラガンという会社がやっていてセミナーを開いて、セミナーに出席した者に免許を与えています。首・顔・目の周りに打つ注射は別々に講習会があります。その免許を持っている人はたくさんいると思います。これからだんだん全国何処でも治療が受けられるようになると思います。

Q:実際に脳性まひに対してボツリヌス療法を行う上での問題はあるのですか?

A:脳性まひの患者さんでの大規模な検討がありませんので問題がないとはいえません。
つまり十分な検討がなされていないと言うことでは問題があるかも知れません。

感想

山本先生、野倉先生、お忙しい中を取材にご協力いただきありがとうございました。
ボツリヌス療法はまだ始まったばかりで、理解されていない部分があると思います。それはボツリヌス菌が生物兵器にもなり得るほどの危険性を伴うものであり、反論、異論を言われる方もみえるなどの理由があるからです。この療法が合う人、合わない人いろいろだと思いますが、二次障害の予防など、二次障害に関する情報が少なく、困っている人、知りたい人は多いと思います。この療法が皆さんの一つの選択肢であり、選択できることが重要だと思います。
脳性まひの二次障害について、もっと研究して整形外科やリハビリの先生方と連携を取り、二次障害で悩んでいる人たちの話も聞いてもらいながら、二次障害の治療や予防を確立していってほしいと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。ボツリヌス療法は始まったばかりで、まだわからないことが多いと思います。この治療を受けるには、先生のお話をよく聞いて自分が納得した上で受けてください。ボツリヌス菌は生物兵器となり得るほどの危険性があることも理解しておいてください。

脳性まひの二次障害 ボトックス治療体験談

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