脳性まひの二次障害MAB法 ボツリヌス療法インタビュー

2019年6月
この記事は2004年の情報で、現状把握はしておりません。最近、私の周りには二次障害で体調を崩す人、首の手術を受ける人が少なくありません。もっともっと画期的な治療があると良いと強く思います。
※2022年4月をもってAJU福祉情報誌は終刊になりました。

(AJU福祉情報誌67号掲載)

私は1998年に、二次障害で首の手術をしました。その時、私自身情報が少なくて困ったので、脳性まひの二次障害で悩んでいる人たちへ向けて、治療法などの情報を届けたいと思っています。
前回の藤田保健衛生大学病院神経内科の先生に、ボツリヌス療法についてインタビューしたのに引き続き、今回は愛知県心身障害者コロニー中央病院で、実際に障害を持っている人の治療を行っている先生方(麻酔科の重見先生、水野先生、整形外科の伊藤先生)にMAB法、ボツリヌス療法についてお話を伺って来ましたので紹介します。(2004年1月現在)

Q:この治療は簡単に言うとどのような治療ですか?(痛み止めの注射と同じ?)

A:局所麻酔薬のリドカインと濃度を薄めたアルコールを緊張した筋肉に注射することでその筋肉の収縮を抑え治療する方法です。痛み止めの注射とほぼ同じです。

Q:この治療はいつ頃から行っていますか?

A:この病院では4年程前からです。京都府立医科大学ペインクリニックで痙性斜頚を治療していて、その治療法の一つとして京都大学医学部神経内科でMAB法を教えてもらい、こちらの病院に来てからは脳性まひの患者さんにも治療するようになりました。
※ペインクリニック 痛みの治療

Q:男女、年齢、緊張の具合で治療の違いはありますか?

A:体の大きい人・筋肉の多い人などは薬の量を多くしたりします。ボツリヌス療法と同様にすでに縮んでしまった筋肉は伸びません。体型など考慮していますが、やってみないと分からないというところもあります。状態を観察しながら注射を打っています。

Q:一回治療を受けるのにどのくらいの時間がかかりますか?

A:緊張の強い筋肉を診て複数の部位に注射します。一回の注射は30秒位です。休憩を入れると全体で約20~30分で、終わればそのまま帰ることができます。

Q:薬の量はどれくらいですか?

A:身体や筋肉の大きさによりますが、だいたい5~20ccです。前腕には少量、肩には多めにというふうに量を変えます。

Q:今まで脳性まひの人をどれくらい治療しているのですか?

A:この病院に来てからはまだ5~6人です。

Q:副作用はありますか?

A:アルコールを入れるので、子供やお酒に弱い人は顔が赤くなり、酔っぱらうことがあります。薬が身体に合わなければ、他の薬と同様に、血圧低下や呼吸困難などのショック症状が起きる可能性は否定できませんが、これは、どんな薬でも注射する時には可能性のあることです。たとえば蜂に刺されたときにショック症状が起きてしまうことがありますよね。

Q:効き目の評価は?今まで脳性まひの人を治療して効き目がない人もみえますか?

A:個人差が大きいと思います。子供で効果が長続きしない患者さんがみえました。注射した直後は必ず効果がでますが、それが何日あるいは何週間持続するか予想することは困難です。効果の評価については、客観的には変化がなくても、ご本人が効いていると自覚している患者さんもみえます。多くの場合、最初は1週間に2~3回で始め、月1回様子を見ながら続けています。

Q:最初にMAB法を始めたのはどの病院ですか?

A:京都大学医学部附属病院だと思います。

Q:日本でこの治療を行っている病院は他にもありますか?

A:京都大学医学部付属病院神経内科や東京女子医科大学脳神経外科等が良く知られた所だと思います。

Q:海外の状況は?

A:海外の文献を検索しても見あたりません。MAB法よりボツリヌス療法の方が効果がよいので、海外ではおそらくやっていないのではないかと思います。

Q:なぜこの治療に興味を持たれたのですか?

A:はじめは痙性斜頚(けいせいしゃけい)の治療が目的で、MAB法を採用しました。こちらの病院に赴任して、脳性まひの患者さんにも応用できると考えました。

Q:MAB法からボツリヌス療法へ治療が変わっていくと聞きましたが、そのあたりを聞かせて下さい。

A:MAB法は何度か注射すると筋肉が硬くなったり、コリや痛みが生じたりすることがあります。効果もボツリヌス療法より劣ります。痙性斜頚(けいせいしゃけい)はボツリヌス療法の保険適応ですからそちらで治療します。2年前にボツリヌス療法の講習会があり、整形外科1名、麻酔科2名の医師が受講して準備したのですが、患者さんからのリクエストが少ないのが現状です。注射は痛いと思って敬遠しているのでしょうか?ボツリヌス療法を希望されるか否かも含めて、患者さんや家族と相談しながら脳性まひの症状に対処していきたいと思っています。

Q:ボツリヌス療法は始めているのですか?

A:始めています。眼瞼痙攣(がんけんけいれん)・痙性斜頚(けいせいしゃけい)など保険が適応されますが、手足などは保険が適応されません。

Q:脳性まひの人に対してボツリヌス療法を行う上での問題点はありますか?

A:注射後、心停止で亡くなった症例が1例報告されていますが、ボツリヌス注射液との因果関係は不明です。仮に治療する量の注射液を直接静脈内に全部注入しても、薬剤の直接作用で呼吸停止や心停止を来すことはないと思います。

Q:他に障害を持っている人に対して取り組んでいるものはありますか?

A:モーターポイントブロックなどです。MAB法は筋肉内に薬液を注入して筋肉の収縮をブロックしますが、筋肉に収縮する命令を送る神経をブロックする方法として、モーターポイントブロックという注射があります。これは脊髄から伸びてきた神経が、筋肉に潜り込む点を捜してそこに注射する方法です。

Q:どうして麻酔科で治療するのですか?

A:神経筋疾患の専門家である神経内科で治療されるのが最善と思います。しかし、使用する局所麻酔薬や注射の手技は麻酔科医でも慣れているので、痛みの治療の応用として行っています。麻酔科医は手術中、眠らせて痛みを除くだけでなく、体動の抑制や反射の制御なども行っています。その技術もこれに応用できます。

整形外科の先生にインタビュー

Q:ボツリヌス療法は始めているのですか?

A:脳性まひの人にももちろん効果があるので、使用してよいと思いますので、希望があればやっています。不随意運動がある人も特に首など、とても効果があるのではないかと思っています。実際に不随意運動がある成人には、まだやった例はありませんが、お子さんでやった例はあります。すごく緊張が強くて首が強く反り返ってしまうような症状で、注射により1ヵ月程度はとても調子よく過ごせました。

Q:実際に脳性まひの人に対してボツリヌス療法を行う上での問題点はありますか?

A:薬効は特に脳性まひの人だからといって問題点はないと思います。薬の量としては最初は少なめで徐々に効果をみながら増やしていく事になると思います。経過が長い人、特に成人だと普通の痙性斜頚(けいせいしゃけい)でも効果が出にくいと言われていて、全く効かない訳ではないですが、完全に不随意運動がとれてしまう事にもっていくのは、ちょっと難しいと言われています。これから実際に治療していく事でもう少しはっきりしたデータが出てくるとは思います。今の時点ではデータが少ないというのが実情です。しかし、総合的に考えると、手術をためらっている方や、手術を避けるためにも症状を和らげたいという方は、この治療法を試す価値はあると思います。総合的に考えあわせると、手術で神経や筋肉の処置を行う前に、この治療を試すことはよい考えであると思います。

Q:この病院の患者さんの対象は?

A:設立当初は、いわゆる障害の予防、障害に対する外科的治療、リハビリテーションを含む総合的診断治療および障害の合併症に対する治療が目的でした。その後30年以上経過し、遺伝子の解析が進み、病気や障害の概念が変化し、障害者を取り巻く社会も変化しました。現在は、「人間の発達に関する医療を提供する」ことが目的となっています。ですから、赤ちゃんや子供が多いのですが、成人の脳性まひや二分脊椎、自閉症、ダウン症、筋ジストロフィーなどの患者さんもたくさんいます。

Q:小児の脳性まひの人に対してボツリヌス療法を行う上での問題点はありますか?

A:子どもでも緊張が強い場合、ボツリヌス療法を選択肢の一つとして良いと思います。しかし、まだ厚生労働省が正式に使用を認めていない現状では、重症の患者さんに対して、筋肉が拘縮する前に家族の納得を充分得た上で、ボツリヌス療法を行うべきでしょう。厚生労働省の認可の問題とは別に、子どもの時からボツリヌス注射を一生続けると、これに対する抗体ができて効果がなくなるのではないかという懸念があります。この治療法は歴史が浅く、長期使用の経過についての報告は世界的にもありません。アメリカでは痙性斜頚(けいせいしゃけい)の場合で、年に2~3回のボツリヌス注射で症状がコントロールできるのなら良い治療法であるという評価です。また、注射の量も試行錯誤で、たとえば首だけという狭い限られた範囲だと、効果がはっきりわかるのですが、首から背中全体に緊張のある人など、対象となる筋肉が広い範囲にある人では、どこにどれだけ注射すればよいか指針がありません。薬の効果には個人差もありますから、何回か注射してみて部位と量を定めていきます。

Q:ボツリヌス療法の現状については?

A:アメリカではたくさん使用されていますが、日本では歴史が浅く、厚生労働省の認可も限られています。薬剤は高価ですが、保険が利用できる範囲では負担は軽減されます。現在日本では保険は利用できませんが、美容形成外科で皺(しわ)取りに広く使用されています。
この病院では充分時間をとって患者さんの相談に応じています。紹介状はなくても構いませんが、これまでの経過や常用薬などの情報を得るため、紹介状があった方が助かります。セカンドオピニオンを目的として来院していただいても歓迎します。「さつきさんに聞いて来ました。」と言ってもらうと、お話を始める良いきっかけになるかもしれません。是非、どんなことでも相談に来て下さい。お待ち申し上げています。

医療用語
神経内科:神経系や筋肉の病気を診断し、手術以外の方法で治療する科。
整形外科:四肢や体幹などの骨、骨を動かす腱・筋肉・神経系の疾患を主に手術で治療する科。
麻酔科:手術中に患者を安全に眠らせておく事が仕事。その際に必要である人工呼吸の知識や鎮痛の技術を用いて、集中治療室やペインクリニック(痛みの治療)などの仕事も行う。

さつきの感想
重見先生、水野先生、伊藤先生、お忙しい中を取材にご協力いただきありがとうございました。この病院は障害を持った人が診療に訪れる病院で、先生方も障害を持っている人に慣れていて、とても優しく真剣に接して下さいました。 MAB法のことも知ることができ、ボツリヌス療法の治療にも取り組んでいるようです。通院はちょっと大変(交通手段が限られる)だと思いますが、セカンドオピニオンを受ける病院としては良いと思いました(障害を持った人が気軽に行ける病院がもっと増えるといいですね)。
MAB法、ボツリヌス療法ともに治療が合う人、合わない人いると思いますが、二次障害に関する情報が少なく、困っている人、知りたい人は多いと思いますので紹介しました。この療法が二次障害で悩む人の選択肢であるということを知ってほしいと思います。
脳性まひの二次障害について、研究して二次障害の治療や予防を確立していってほしいと思います。先生にお話を聞いてもらうためにも身体がおかしいな?と思ったら、私みたいに手術ということになる前に、早めに病院で診察を受けることをおすすめします。

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